松井玲奈著「累々」の読書感想




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1.はじめに

前作のカモフラージュも私は読んでいる。
前作の感想は文章は上手いが、話の内容に興味が持てなかった。
山がないストーリーで短編だと何らかの感情を抱くのは難しい。
今作累々も短編だと思っていたので、今作はいいかなと遠慮していたが気になっていたので購読した。

今作は良い意味で裏切られた。おすすめできる一冊である。

2.読書感想

今作も短編の寄せ集めだと思っていたので、期待せずに読み始めた。
1つ目を読み終えて、あぁこれはあるある作品だなと前作が脳裏によぎった。
話はわかるが、特に何か感想を持つことはなかった。
2つ目を読み終えて、著者は不倫とセックスが好きな欲求不満の熟女みたいな脳内なのかとこの小説と著者に興味を失いつつあった。
3つ目を読み終えて、「こ、これは!」と胸の高鳴りを感じた。
ようやく、キャラが立ったオリジナル性がある人物が登場した。
急に脳内恋愛RPGパパ活おっさんが登場し、著者の個性が初めて感じられた。
そして、今までの話が伏線であったのかのごとく繋がりだした。
そう、今作はただの短編集ではなかったのだ。
朝井リョウ氏の作品のように、同じ世界を他人の視点によって書き分けていたのだ。
物語が繋がりだしたときに、その意外性に驚くとともに興味がなかった主人公である各短編のタイトルになっている人物に急に興味が湧いてきた。
4つ目を読み終えて、なるほどそういうことかと主人公の行動理由について少し分かったような気がした。
単純なもんで、ただのカフェ店員のフリーターだと思っていた人物が元美大生で受賞歴がある才能ある人物だと分かると見え方が変わってきた。
もったいないなとか、恋愛の力って凄いなとか随分と作品に没頭していた。
大学生時代の話であり、真っ直ぐな恋愛を描いたキラキラした青春物語でこの編だけで少女漫画一本書けるような濃さがあった。
一筋縄にいかせないところに著者のスタンスを感じた。
ここまで読んでくると、登場人物全てが個性的で魅力ある人物に見えてきた。
5つ目は起承転結の結に当たる部分で、総まとめで登場人物が総登場である。
何で結婚を決めたのかは、正直分からなかった。
主人公の行動が、一般論では計れないところが本作の魅力であるから最後はあっけなく決まった方が自然だったのかもしれない。
結局ただのマリッジブルーだったなんてあっけない一言で片づけられそうな物語だった。
それを全く飽きさせずに広げてくれた創作だった。
「知らぬが仏」何にも知らない新郎が滑稽であるという毒が著者が持っているエッセンスだろうか。
結婚式という華々しい舞台と主人公が行ってきた破廉恥が重なり際立つコントラストが結に来て、おめでたさがしなかった。
読む分にはとても面白い作品だった。

主人公の背景やパーソナリティは短編が積み重ねっていき何となく分かった。
一方で、他の登場人物については消化不良であった。
琴吹さんは漫画に出てくるようなキャラが非常に立っている悪女役であり、その後どうなったの?と非常に興味が湧く。
琴吹さんが主人公でも今作と同じような物語が書けるのではないだろうか。

そして、ハジメ先輩や若葉先輩のその後など気になる点が一杯である。
特に若葉先輩は、あまり描かれておらずむしろ美大生時代の先輩として固有名詞を持たせなくても話が成立してしまう。
結局、若葉先輩は何ために登場させたのだろうか。
大学生活の複数人男女によるキラキラした青春感を出すためのかませ犬だったのだろうか。

3.おわりに

起承転結がわかりやすく、話が進むにつれて面白くなっていき夢中になって一気に読み終えた。
連載でなかったら、長編にできたのではないだろうか。
もっとこの作品について知りたいと思ってしまった。
つまり、それだけ夢中になれる作品であったということだ。

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