瀬尾まいこ著「戸村飯店青春100連発」の読書感想




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レビュー:★★★☆☆
この本を読むきっかけは、「そして、バトンを渡された」の文庫本の巻末解説で上白石萌音さんが本書を絶賛していたからだ。
もちろん「そして、バトンを渡された」が家族構成が複雑な設定の中で、最後まで心地良く読むことができたという前提はある。
たぶん、しばらく瀬尾さんの作品を読むことはないと思う。
それは、本書が残念だったとかそういうことではない。
瀬尾さんの作品は、児童文学やヤングアダルト向けだと思う。
だからこそ、誰にでもおすすめできる健全な物語だ。
ダ・ヴィンチ2021年11月号に瀬尾さんのインタビューが載っていたが、ご自身のことを包み隠さず語られていて器の大きさを感じた。
学校の先生をされていたのもダ・ヴィンチを読んで知ったが、きっと温かい先生だったのだろうなと想像した。
温かさが作品に滲み出ている。
一方で、スパイスを欲している自分もいるので、一旦瀬尾さんの作品を読む間隔を空けようと思ったということだ。
常々思っていることだが、どこにでもあるような家庭を物語にして平凡な日常を一つの作品とする作家の能力に驚かされる。
それを本業の傍らに執筆していたとは常人には考えられない所業だ。

さて前置きが長くなったが、本書の感想についてである。
主人公であるヘイスケやコウスケについては正直特に感想を持っていない。
ヘイスケがたった一年の東京生活で三人も大切な人ができたのは羨ましくあるが。
特に古嶋は良い奴だった。
ヘイスケとコウスケは普通の10代の兄弟である。
コウスケに至っては、陽気に本当に普通の高校生活を送っているように感じられた。
コウスケのこれからの大学生活には興味津々ではある。
本書を緩やかに読んでいて思わず手が止まったのは、コウスケの高校での三者面談の場面であった。
コウスケが家業である戸村飯店を高校卒業の進路とすることを告げると、父親が猛然と反対するのだ。
これまでの話の流れからすると自然な流れであったからこそ、コウスケと同じように読んでいるこちらも面食らった。
思いの外といったら失礼だが、子どもの将来のこと真剣に考えていたことに驚かされた。
この父親や母親の愛情に胸を打たれたというのが、この作品を一番の感想だ。
大学に行くということは昨今において珍しいことではないが、大学に行けることは当たり前ではないことをそっと教えてくれた。
親のおかげという口に出しづらいことを作品を通して教えてくれる。
ヘイスケが帰る場所もちゃんと用意しているなど、素敵な家族愛を描いた作品だった。
本書も読後に温かさが残る作品だった。
やはり毒がない作品で、誰にでもおすすめできる作家だ。

「そして、バトンを渡された」の上白石さんの解説にあった通り、本書と構成は似ている。
合唱コンクールや食事などが出来事の中心にあった。
ありふれた日常の出来事から温かさを感じられるのは素敵なことだ。
そういった日常を得られるように歩んでいきたい。

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