松井玲奈著「カモフラージュ」の読書感想

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レビュー:★☆☆☆☆

1.はじめに

読むきっかけはアイドルとした燦然と輝いた
著者に興味があったからである。
どのような文章を書くのか読んでみたかった。

物事を詳細に文字で表現されており、
まさに文学といった作品であった。

サブカルチャーに造詣の深い著者のイメージからライトノベルのような
キャラクターが際立った会話中心のような作品かと思ったら、違った。
たった数時間や数日の出来事をこんなにも文字で表現できるのかといった
文章の上手さというか能力の高さを感じさせられた。
ジャンルの違った短編小説が書かれており、表現の幅を感じさせられた。

ただし、短編の各テーマに共感というか
面白味を感じることはなかった。

私は、どちらかというと「キラキラした青春小説」
に入り込めるタイプである(笑)。

細かなあらすじやネタバレを書くつもりはないが、
結果的にネタバレになってしまう可能性がある点を
ご了承の上以下を読んでいただきたい。

2.感想等

この作品は
(1)ハンドメイド
(2)ジャム
(3)いとうちゃん
(4)完熟
(5)リアルタイム・インテンション
(6)拭っても、拭っても
の6編の短編小説からなっている。
それぞれ何かをカモフラージュして生きているというのがテーマである。

(1)ハンドメイドについては不倫というオードソックスなテーマであり、
大きな山もなく単調な作品という印象だ。
オードソックスなテーマなので、実際にこの短編のように
カモフラージュしている人もいるだろう。

(2)ジャムについては、どこか村上春樹チックなファンタジーというか
異世界感が漂う作品であった。
メタファーとして意味が分からない内容ではなかった。
人間は、いくつもの顔を持っている。
人間関係の中で負の感情を持った顔をカモフラージュしているものだ。
社会の荒波に揉まれてストレスを抱えた大人を
汚れなきピュアな心を持った子どもの視点で描かれた作品である。
1回では表現等の理解が追い付かないところがあり、
直ぐに2回目を読んだ作品であった。
こういう世界も描けるのかといった驚きはあるが、
面白さを感じるということはなかった。

(3)いとうちゃんは、読みやすい大衆向けのような作品であった。
体型をカモフラージュをしている人には、
共感でき背中を押してくれる内容ではないだろうか。
合う合わないというのは往々にしてあるものだ。
最後は、胸をなでおろす結末であった。

(4)これはフェティシズムについて書かれた作品である。
パートナーにさえオープンにできないフェティシズムがあり、
そのフェティシズムをカモフラージュしている夫婦の作品である。
完熟した桃を食べたくなるようなありありとした描写がされている。
特筆すべき点は、男性視点の作品であることである。
他の作品もそうだが、空想を文章で表現する上手さを感じさせられた作品であった。

(5)動画配信者3人組の話である。
仲間内で共同操業していると、お金などで揉めることもあるよねといった感想だ。
youtubeなどの動画配信サービスが身近な昨今、
ネタなどで見たことがあるような内容だった。

(6)拭っても、拭ってもで印象に残っているのは、喫煙の話である。
著者は喫煙者なのだろうか、タバコについて詳細な表現がリアルに感じられた。
主人公の女性が前に進んでくれたようで、読んでいて嬉しくなった。

どの作品が一番良かったかと言えば、
拭っても、拭ってもである。
過去の失恋のトラウマに囚われた主人公が、
悩んでいる様、そして前に進んでいく様が
書かれており自然と入り込めるように書かれていた。
最初は何を言っているのかわからないことが、
次第にわかっていき上手く着地した構成の上手さも感じた。

全体として、文章に癖のない作品であった。
私は、万城目学さんや森見登美彦さんのような癖のある文章が好きだ。
これは好みの話であり、賞を取るような正統派の作品であった。
内容としてはあまり共感はできなかったが、
心情やその背景などはよくわかるように書かれていた。
内容に関して、大して山がないというか
突拍子もない事件が起きるわけでもなく
想定内の出来事を緻密に描いた作品であった。
短編だからか各作品の登場人物は少ない。
その点でやり取り等の分かりやすさもあった。

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3.おわりに

結局のところ、作品のテーマにあまり共感できなかったので
面白さという点ではモヤモヤがある。
この本は純文学というジャンルだと思うが、
読む側の能力も試される。
池井戸潤作品のような爽快感を求める方には、
この作品はどうだろうか。
私は、文芸春秋の芥川賞掲載特別号は読んでいる。
芥川賞作品を読んで時間的に良かった思ったことは極めてまれである。
私の求めているものと純文学というジャンルが一致していないのだろう。
嗜好をカモフラージュはできない。

次回作が出た場合は、長編もしくは興味があるテーマであったら購入したい。
今回はReader Store(電子書籍)で読んだ。
刊行記念インタビューが付いていて、
作品を書いた背景なども知れて作品の理解が深まった。

マスター:クレア

<参考文献>
松井玲奈 【電子特別版】カモフラージュ 株式会社集英社 2019

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