山本文緒著「自転しながら公転する」の読書感想

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レビュー:★★★★★

 現実を受け入れる強さを示してくれた作品だ。どこまでも現実的な出来事で、奇跡的な出来事が起きて好転するようなことはない。そういう星のもとに生まれた、運命と言ってしまえばそれまでだが、そう簡単に受け入れることはできない。年齢を重ねるとともに受け入れていくことを妥協、諦念とは呼びたくない。そんな思いに皮肉的に応えるように良くないことが連続していく。読後にめでたしめでたしとは思えないところに考えさせられるところがあり、むしろそれで良いのかと反面教師とするべき物語かもしれないとすら思った。30代独身のフリーター女性の話であるが、どの年代の人が読んでも感じるところがある作品ではないだろうか。なお、共感するところはなかった。

 主人公の都に対して良い印象は持っていない。そのパートナーの貫一に関してもだ。もっと言うと、この作品に登場する人物で好印象を持った人物はいない。それでも478ページある本作を途中で読み止める気は全く起きなかった。結局どうなるのかと先が気になり、飽きの感情は全く抱かなかった。
 とりわけ、お金の問題は如何ともしがたい。このお金の問題が物語の軸であった。別にギャンブルをして借金を抱えたわけではない。一億総中流社会が崩れた日本では、誰にでも起こりうる、悩ませるお金の問題だからこそ他人事ではなく飽きはこなかったのだろう。

 新卒一括採用、年功序列社会、途中下車無効のレールがあり、社会の歯車があるので、人生ある程度までいくと自転しているというよりも公転していることに意識がいく。本書のタイトルは言い得て妙だ。自転しているのかよくわからない世界でせめて結婚ぐらいは、外からの影響ではなく自分の意思で決めたいと思うし、都はそこだけは貫いたところに物語としての完結はあったと思う。それが手放しにおめでとうとは思えないところが本書の深さだ。
 幸せと経済的な豊かさが共に満たされる環境を日本で得ることが年々難しくなっているという問題提起が本書のメッセージだった。学歴や職歴による社会の縛りも意識させられた。
 最後の最後、エピローグまで安易な甘えや赦しを与えてくれなかった。
 強く生きたい。

<参考文献>
自転しながら公転する 山本文緒 新潮社 2020

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