万城目学著「ヒトコブラクダ層ぜっと」の読書感想




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レビュー:★★★★☆

単行本目次を抜かして上巻441ページ、下巻485ページの長編であるが、飽きることはなく最後までハラハラドキドキ、ワクワクしながら読むことができた。
物語自体は、万城ワールドである独自の創作の世界が構築されていて面白かった。
歴史創作をしたプリンセストヨトミに、鴨川ホルモーや偉大なるしゅららぼんに登場するような超能力を融合させたような作品である。つまりは壮大であるということだ。
文明の解釈が独特であり、ついには古代の神々が登場し、予測不能とはその通りである。
ただし、予定調和というかネタバレを極力回避して言うと生存に関してはこうなるだろうなという結論になったので意外性はなかった。これは万城目作品という安心感や自衛官である設定から来た予想であったと思う。
主役は三つ子の兄弟であるが、個人的には銀亀三尉が紅一点で非常に良い役割を果たしていたと思うというか、魅力的なキャラクターであった。登場人物は厳選され少ないにもかかわらず、上下巻の長編を書ききるところに著者の巧みさを感じる。これだけの分量を読んでもなお、もっと続きを読みたいとさえ読み終わった後に思った。銀亀三尉はオリンピックに出れるのか、恋はあるのかや梵地の研究は如何になど下巻の後の広がる物語の方により興味を持ってしまうといっても過言ではない。
今振り返ると、末弟の梵人の活躍があまりなかったことが気にかかる。どさくさに紛れて、銀亀三尉への身体的接触を試みた場面ばかりが記憶に残っている。そして、梵人がやっていた競技は何だったかのという謎は最後まで明かされることなく終わってしまった。この点は残念であるが、梵人のゆるいネタキャラ的なポジションは揺るぎないものとした。
めでたしめでたしとは素直に言えないイナンナ(神)の告白があったが、三兄弟と銀亀三尉が今を楽しんでいるようにして終わったので後味は悪くない。
私は中東(西アジア)の文明や歴史については、からっきしの門外漢である。
それでも創作の部分というか万城目ワールドは分かり、冒険ものとして楽しむことができた。
タイトルはインパクトがあるが、タイトル回収というほど大したものはなかった。インパクト重視にするなら、「メ」の方が独特でかつ斬新で良かったような気がする。

星5でない理由は、イラクを舞台にした創作作品であるが、著者の創造と現実の乖離が大きいところがあり、本書の売りである「ついに海を越えて世界へ!」に水を差していた部分が大きい。自衛隊やイラク情勢などデリケートなところに攻めた独自性は優れているが、跳ね返りも当然ある。
このことは本書の巻末(上巻P466)にも「この作品はフィクションです。実際の個人・組織とはいっさい関係ありません。また、本書にはさまざまな架空の設定と実際の出来事との組み合わせが登場します。執筆開始時には実際になるはずだったものが、架空の設定になってしまった部分があります。それもまた創作の醍醐味であり、あえて修正せず、世に出すことにしました。(著者)」と書かれている。
本書の発刊日は2021年6月25日であるが、「小説幻冬」の連載は2017年11月号からとなっている。現実世界の創作や海外情勢を扱うのはリスクが高いことを本書は示してしまった。創作にケチをつけるというよりは、中東(西アジア)について専門的な知識を持っていない人が多いと思うが(私もその一人である)、そういう人が読んだときに史実と創作の区別がつかないという時代小説あるあるに問題がある。情弱の私にはサダム・フセインの名を見ただけでヒヤッとしてしまう。最近のイラク情勢はニュースで知るところであるが、著者が執筆開始時に創造した3,4年後とは大分異なってしまっている。
著者にどの程度の知識や調査を行ったのか疑念が浮かんでしまう。
その辺りで本書の信頼性がやや落ち、日本の豊臣家を扱ったプリンセストヨトミを読んだときのように歴史を知っていて明らかに創作作品として楽しむのとは違ったものがあった。著者の知識や想像を越えた部分の創作を個人的に感じられた。実際の出来事や人物を使った創作で何でもありだと、混沌とした無秩序の世界になってしまうだろう。
そして、舞台や世界観の壮大さと物語の壮大さががっちりと嚙み合っているかに疑問があり星5にはしなかった。
もちろん、これらのことは読んでいて特に気になって仕様がないなど読書に支障をきたすレベルではない。おすすめできる本であることは間違いない。

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