恩田陸著「蜜蜂と遠雷」「祝祭と予感」の読書感想

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レビュー:★★★★★
始めに断っておくと、私には音楽の素養がない。
コンクールがどういうものかなどもよくわかっていない、ただの素人が読んだ感想である。
なお、映画は観ていない。

消えた天才少女「栄伝亜夜」の鮮烈なる復活劇、成長、覚醒が本筋として読んだ。
一番感動したのは、一次予選での亜夜の復活劇である。つまり序盤だ。
苦悩や過去を乗り越え復活し前へ進む様は胸が打たれ、拍手喝采を浴びる様は心地よく共鳴する。
物語としては、日本で開催されている芳ヶ江国際ピアノコンクールの第一次予選、第二次予選、第三次予選、本線と続いていくが第二次予選がピークに感じた。「蜜蜂と遠来」は507ページまである長編である。私は2日間で一気に読んだので、長丁場のコンクール会場にずっといる観客のような気分に第三次予選あたりでなった。主要な登場人物は、マサル、亜夜、風間塵の若き天才3人である。そして、「生活者の音楽」を掲げる高島明石28歳だ。前者の3人はいずれも10代の学生であるが、明石は楽器店勤務で妻子もいるコンクール出場者であり異色である。大きなコンクールの予選に出場できること自体凄いことだとは思うが、「ギフト」や「音楽の神に愛された天才」以外の現実感を持たせる存在として、他の出場者ではなく明石がピックアップされ特別に描かれたのだろう。明石に関して、なぜと思うところがあったが、これは「祝祭と予感」の「袈裟と鞦韆」を読むと腑に落ちる。具体的には書くと、本書を読む楽しみが軽減されるので書かないが、生活者として明石の経験の深さ、想像力が実を結んだ結果になったのだろう。
どの世界でも上位層に君臨するのは天才であるのは自明である。天才をどう描くかが肝になるが妬みや嫌な感じが全くしない愛すべき天才たちが本書に登場する。いかに天才であるかを場面ごとに言葉を変え雷のように劇的に衝撃的に綴られ続けた。物語が第二次予選がピークだと感じたと書いたが、場面場面で天才たちを表現する言葉が変わっていて、飽きや幼稚さを感じなかった。「ギフト」や「音楽の神に愛された天才」といった分かり易い言葉だけで片づけるのではなく、著者が音楽に向き合っているのが伝わってきた。私は音楽の表現はよくわからないが、それでも物語や音楽の深さは感じた。物語映えする風間塵という生粋の天才や、幼馴染の運命的な再会など漫画のような分かり易い煽情的な設定もここまで物語を緻密に描かれていれば、あり得る物語の一部に感じられた。
音楽を文章で表現するという難しい世界の物語だが、立体的に感じられとても面白かった。
何度もスタンディングオベーションをしたくなった。

「蜜蜂と遠来」の続編の短編集である「祝祭と予感」は必読である。本編の最後はあっけなく、本戦の演奏で全て描き切ったと言わんばかりに本戦の余韻を残して終わる。
その後日談や、ナサニエルと三枝子の出会い、「春と修羅」の誕生秘話、マサルとナサニエルの出会い、奏とヴィオラの運命的な出会い、風間塵とホフマンとの出会いなど、本編の行間を埋めてくれ、その後を教えてくれる。本作は具体的な作品であるので、語り過ぎない方が良いということはなく、「祝祭と予感」は「蜜蜂と遠来」が好きな方には間違いなくおすすめである。

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