君嶋彼方著「君の顔では泣けない」の読書感想




Pocket

レビュー:★☆☆☆☆
読書感想は、ライトノベルを無理に真面目な小説のように書こうとしているようで読んでいて居心地が悪く、気づきなく後味の悪い作品だっただ。
以下にネタバレを含むことをご了承いただきたい。

内容は高校生の男女の体が入れ替わる、よく漫画の世界にある話だ。
最近では、映画「君の名は。」が同じように高校生の男女が入れ替わる物語で大ヒットしたことが記憶にも新しい。「君の名は」は男女の時間軸が異なっていて、過去の隕石災害から街を守る壮大な使命感がある作品だった。入れ替わるという超常現象に明確に意味があり、必要性があった。
本書には超常現象の明確な意味も必要性も感じられなかった。
ただ高校生の男女が入れ替わって、それぞれがそのまま15年という時を過ごすのだ。
比較的短期間で入れ替って何かを成し遂げて、元に戻るというのがこの超常現象のセオリーである。そこに抗って15年もの物語を書いたところは、斬新である。
しかしながら、その15年間に感情移入できないどころか嫌悪感すら覚えた。
例えば、体が入れ替わることであっさり性的指向が変わるという単純さや、強姦未遂を事もなげに書いていることに理解ができなかった。どちらも大きな問題というか、それだけメインテーマになりうるものだ。女を好きな男が体が入れ替わって、体が女になったからといって、男を簡単に好きになったり、性交をできるものだろうか。
この入れ替わった男女の葛藤を描いた作品としたいのだろうが、内容が思慮が浅いというか上手く伝わってこなかった。
男女が入れ替わって、男子高校生が直ぐに思うことが親に会いたいとか、弟に会いたいだろうか。
家族への思いに重きを置いているが、高校生の思春期や反抗期というものをわかっていないのではないか。親のありがたさに高校生で気づいていたとしたら、精神的に相当成熟しているはずだが、残念ながら坂平陸は成熟とは正反対にいる。
性的指向の扱いが軽率ではないか。セクハラや強姦未遂などを簡単に書きすぎではないかなど腑に落ちない点が連続し、内容が上手く入ってこなかった。磯矢という変態教師の強姦未遂を何もせずに泣き寝入りし、それは事情があるとしてもその後新たな被害者が出たのに、それを笑い話にしていたのは寒気がした。
男はいつまでも精神年齢が低く、女は大人びているみたいなありきたりの設定がずっと続き、15年経っても入れ替わった男・坂平陸の成長が大して感じられない点も残念というか物語性がなく、私は何でこの本を読んでいるのかとさえ思わされた。
なお、そこにリアルがあるとは全く感じなかった。
なぜなら、結局坂平陸は女としての人生を早々と受け入れたからだ。
ずっと水村まなみ(入れ替わった女)のせいにしながらだ。
この言動が一致しないところが自分勝手な作品だなと印象付けさせられた。
リアルにするのなら、15年間ずっと入れ替わったときの葛藤を持ち続けるか成長しているものだろう。
やることだけやって、後は人のせいでは胸糞悪く葛藤を感じられない。
もしかすると、水村まなみを主人公の視点にしていたら、腑に落ちていたのかもしれない。
つまりは坂平陸の人格を私は受け入れられないのだ。
そもそもとして、何がリアルなのかという問題があり、別に正解があるとは思っていない。
そして、この二人が入れ替わる必要性や入れ替わるという超常現象を起こしてまで書きたい世界は何だったのかというのは最後まで伝わってこなかった。男として生きていたら気づかない、女が虐げられている世界をわかって欲しかったのだろうか。もちろん外見が変われば、多少の苦労はあるが他人として生きていけるというのは本書のメッセージではないだろう。
ライトノベルでユーモア溢れる作品であれば流し読めるが、本書にコミカルな場面など一切ない。超常現象が起きている以上、運命があるのではなく、ただの日常を描いた作品とするには相当な力量が必要になるのではないか。残念ながら、読書後に新たな気づきや満足感は得られなかった。せめてタイトルの回収には、もっと伏線や納得感が欲しかった。君の顔で泣かなければ、君の顔で何をしても、君に何を言っても良いのだろうかと作者に問いかけたい。

単純に思うのは、どんな容姿や身体的特徴、能力などを持っている人と入れ替わるかというのは重要だと思う。
そして、何で誰にも言わないことにしたのかもよくわからない。
誰かに言ったら死んでしまう呪いにでもかかったのだろうか。
もともと意味がわからない現象が起きている世界だから真面目に言うのも何だが、二人を知る田崎に言えば解ってもらえそうだった。
結婚相手にも言わない。
坂平陸は二人だけの秘密の世界(異世界)がよっぽど好きだったんだろう。
受け入れて華の女子大生を謳歌しているのに、ぐずる。
勝手に結婚して出産間近になり、ぐずる。
坂平陸はこだわりが強く、傲慢な印象は拭えない。
水村まなみがお母さんで、坂平陸はあやされた子どものような話だった。
結局男女が入れ替わることが意味不明であり、その後も理解できない世界だった。

「辻村深月氏劇推し!!」という言葉をもう信用しない。
最近は著名な作家先生の大作ばかりを読んでいたので、趣向を変え新作を読みたいと思い本書を購入した。角川書店得意のポップで可愛らしい表紙に釣られたのもある。
著名な作家先生が著名であるのは理由があるのだと当然のことを思い知らされた。

随分と偉そうに書いて申し訳なさはあるが、本書の値段も著名な作家先生の大作も値段はほとんど変わらないので、思うままを書かさせてもらった。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です