加藤シゲアキ著「オルタネート」の読書感想




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レビュー:★★★★☆
読書後に、これほど清々しさを感じたのは久しぶりだった。
読書中に風を感じたのだ。
台風の暴風雨にさらされ皆一様に暗雲の中始まり、次第に台風が過ぎ去っていき、生温い爽やかな風に変わり、虹がかかった空のように皆一様に清々しくエンディングを迎える。
無理のない自然な学園生活が描かれていて、確かな高校生たちの成長が感じられるいわゆる青春群像物語だ。

登場人物の多さに、これは最後にまとまるのだろうかと半ばあたりで不安がよぎった。
加藤シゲアキ氏の作品は、過去に「閃光スクランブル」だけ読んだことがあった。
印象は、作風が石田衣良氏にそっくりで、直線的でどこかきざなところがあると思った。
一作しか読んでいないので、著者への信頼があるわけではなく、途中で桂田武生など一部のキャラクターは出落ちの使い捨てだったのかと心配になっていた。
それは杞憂に終わり、主要な登場人物は円明学園を起点に上手く交わり収束し、それぞれの青春を歩んだ。
本書のタイトル「オルタネート」とは、高校生のみが使えるSNSである。通常のSNSと違うのは、生徒手帳の本人確認が必要で、実名と顔写真を公開する非匿名性にある。
確かにオルタネートは本書において重要な役割を担っている。
ただ、やはりSNSはツールに過ぎない。調理部の部活動などを通してできたリアルの繋がりにこそ、本書の魅力がある。
SNSのあり方や使い方は本書において重要なテーマであったのは間違いない。
匿名性への問題提起や、結局は使い方次第、使う人間の問題であることを示している。

また多様性を意識して書かれたのだろうなという印象を持った。
同性愛者、高校中退者、家庭環境が悪い生徒、複雑な親子関係、そしてオルタネート(SNS)と情報過多であり、上記のとおり上手くまとまるのか不安に思った理由はこの辺りにある。
要素の盛り込み過ぎ感は、やはりある。
もうちょっと分量があればスッキリしたかもしれない。
しかし、別に本書は多様性をメインテーマに書いた作品ではない。
調理部の2人が参加した「ワンポーション」の部活動などを通じた学園生活の熱い青春が見どころだ。ワンポーションとは、高校生の料理の全国大会のことである。
「ワンポーション」をネット中継で観ている調理部員たちと同じような気持ちになるほど、緻密に丁寧に書かれていた。それこそ、甲子園や高校生クイズを観ているような感覚だ。
本筋に持ってくるだけの熱量が調理部にはあり、新見蓉にはそれだけの物語があった。
目次の次のページにある「主要登場人物」に掲載されている12人のうち憲一くん以外には、明確な役割があるというかスポットライトが当たり、作品に深さを加えた。
恋愛に関しては、初々し過ぎるような気がするが表紙の可愛らしい女の子がもたらすイメージ通りで、純粋でひたむきな世界としてこれで良かったのかもしれない。
名前は珍しいというかあまり見ない漢字で、オルタネートや遺伝子を用いたマッチングなども含めて今の世界とは違う、ちょっと別な先の世界のような感じがした。

また、円明学園は著者の体験を基に構成されていたのだろう。
大学附属の高校ならではで、高校生三年生の夏や秋は受験など進路の話ではなく、部活動や最後の文化祭に熱を入れる生活が描かれている。大学に行っても同じ敷地内に高校があることから、部活の後輩と気軽に交流できる生活など附属高校の良さを活かした作品だった。
パイプオルガンなどの音楽の話や礼拝の話なども、浅くはなく物語に厚みを持たせ学園の雰囲気がよく伝わってきた。
楤丘尚志サイドの人間は、物語全体としては少し浮いていた感があるが、違った視点を作品に与え、みんなそれぞれの道に進んで大団円で良かった。
マコさんが尚志にエヴァンゲリオンに登場する葛城ミサトのように、キスをするシーンがある。
これは本筋に特に影響しない。
マコさんがエヴァやドラマに影響を受け背伸びして大人の女を演じたかった微笑ましいシーンだと思っている。
著者の中二病的なところが出てしまったのだろうか。
他にも、週末に大切な人と食べるという意味がある「ウィークエンドシロン」などやはり著者はきざである。

突拍子もないことが起きるのではなく、部活動や文化祭などの学校生活を通じた正統派の青春群像劇であることが本書の最大の魅力であり、誰にでも安心しておすすめできる本である。
強いて言うと、小中学生にも安心しておすすめできる児童文学的な作品である一方、毒々しさが欠けているところに好みが別れるところだろうか。

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