宮島未奈著「成瀬は信じた道をいく」の読書感想

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レビュー:★★★★★

※以下の感想は、ほぼネタバレなしです。

 結論から言うと、とても良かった。「成瀬は天下を取りにいく」の終わりが良かったので、続編を読む怖さがあった。怖さからくる不安が杞憂だったと思えるほど予想を超えてくる良さがあった。前作でユーモアに溢れながらも地に足のついた内容で著者への信頼感に自信を持ったが、今作を読んで「自信が確信に変わりました。」(言いたかっただけ)。今作には無理にひねり出した感がなく、作者の躍動が感じられた。

 多くの方は成瀬がどうなるのかと成瀬もしくは島崎に興味を持って読み始めたことだろう。私もその一人だ。なんと驚くことに成瀬を超える逸材が登場してしまう。花巻東高校に菊池雄星選手のような逸材は後には現れないと思っていたら、その3年後に大谷翔平選手が現れたそんな衝撃だ。その名も呉間言実、3編目の「やめたいクレーマー」に登場する。「やめたいクレーマー」は手塚治虫や藤子不二雄Aらの作品にみられるようなブラックユーモア作品で、読んでいて昭和期の漫画のようなズッコケな絵が頭に浮かんでくる傑作だ。抱腹絶倒であり、作者のキャラクター造りには脱帽である。作者のプロフィールに京都大学卒とあり、思うところがあった。私の好きな作家に、先日直木賞を受賞した万城目学氏、そして森見登美彦氏がいる。二人の共通点は京都大学卒であることだ。京都大学出身というだけでカテゴライズするのは良くないが、独特の世界観やユーモアがありあっという間に読み終えてしまう不思議な魅力が万城目氏、森見氏、そして宮島氏の作品にある。

 今作を読み終えて思うことは、成瀬シリーズは作者の私小説に近いものではないだろうかということだ。前作がヒットしたからといって浮足立つことなく前作にも勝るとも劣らない成瀬ワールドを見せていただき、成瀬は着実に成長している。具体的に言うと、表紙のイラストに引っ張られてライトノベル寄りのキャラクター重視の読者に媚びを売った作品にならなかったところが素晴らしい、感動した!作者のYouTuberのイメージが進め電波少年企画の猿岩石あたりであるような時代錯誤感も成瀬の世界観とマッチしていたので、それもまた面白かった。仮に表紙にあるような美少女で、M1に出たり、各種メディアに取り上げられたりしていたら、流石に芸能関係者の目に付くだろうなと思う一方で、「成瀬慶彦の憂鬱」と某有名ライトノベルのタイトルを拝借したかのような章があり作者がそれ(商業用)も楽しんている気配すら感じられた。少し棘がある人物も登場するが、成瀬の周りにいる人間はみんな愛すべき隣人のような良さ持っており、温かい作品である。

ただ一点気になるところは、成瀬がびわ湖大津観光大使に応募者多数の中から選ばれたことだ。そこは作者が物語の進行を優先し深く考えないことにして選考過程を省略したように思えた。成瀬も何かしらの強力なコネクションがあったのだろうか。他には、前作の小編でメインも務めた大貫の進路が気にならないといえば噓になる。

 雑誌ダヴィンチのインタビューで三部作を予定している作者が答えられていたので、次作も楽しみに待ちたい。続編への怖さはもうない。確かな一冊だった。

<参考文献>
「成瀬は信じた道をいく」 宮島未奈 新潮社 2024.1

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