五十嵐律人著「原因において自由な物語」の読書感想

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レビュー:★★★★★

 欅坂46の代表曲「サイレントマジョリティー」や「黒い羊」を題材にした小説、そんな印象を持った。世界観が欅坂46の「僕」だった。レビューを最高にしたのは、その点が大きい。想像力を搔き立ててくれた書だったということだ。

 ミステリーとして筋が通っていて、無理なく物語として成立していた。
展開が最後の方まで読めなかったが、最初からあった伏線が回収されていき現実的に起こりうる話だなと納得の上で読み終えた。著者の作品では「法廷遊戯」を読んでいたが、時系列、登場人物に繋がりがあった。この辺りの必要のない繋がりが幼稚に感じられなくもなかった。遅々として進まぬ展開や堂々巡りにまどろこしさを感じたが、丁寧な説明、展開であったからこそ特に不明な点がなく読み終えたのだろう。
 本書はミステリーの話というよりは、ミステリー作家の話で私立北川高校で起きる一連の事件は作家の題材の一つでしかない。被害生徒とその他大勢の生徒や大人の温度差がリアルであり、重大事件も一人のスクールロイヤー遊佐相護を除く大人たちにとっては仕事の一つでしかない。作家二階堂紡季は、自分の成長の糧としてあっさりと消化している。いちいち感情移入して相手のためだけに滅私奉公しない登場人物の姿勢に、背後にいる著者のプロフェッショナルを見た気がする。
ミステリーとして読んだ場合、胸くそが悪いし、加害者が処罰を受けるところまで書かないと加害生徒に悪知恵を付けさせる禁忌本になりかねない。著者が弁護士であるので本書に書かれている法律談義に説得力があり、分別がある人が読む分には問題提起の意味があるが、ない人には屁理屈に使われかねなくおすすめできない書となっている。
最後に作家としての所信表明を著者に変わって、本書に登場する作家二階堂紡季にさせていた。一番のメッセージがこの所信表明であったのは残念というか、しょぼさを感じたが意義を持って仕事に取り組むことは素敵な事だとは思った。
昨今のSNSを利用した学校内のいじめ、いじめという言葉では甘いと言わざるを得ない重大事案に教育行政が誠意をもって対応する時代になって欲しいと本書を読んで思うはずだ。学校の教員が本書を読んだら、どう思うのか。そこに興味がある。言うは易く行うは難しというのが感想になるのではないかと私は思っている。そんなものであるし、本書に登場する北川高校のようなこんな問題ある学校に拘る必要があるのかということも問題提起する必要があると思った。

<参考文献>
原因において自由な物語 五十嵐律人 講談社 2021

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