朝井リョウ著「スター」の読書感想
レビュー:★★★★★
この冷静と情熱の対立軸から生まれる葛藤や明暗の濃淡こそが朝井リョウ氏の作品だ
「桐島、部活やめるってよ」が高校生編、「何者」が就活編、そして本作「スター」が新卒社会人編と青春三部作だと理解した。同じ登場人物はいないし、直接的な繋がりは一切ないが根底にある葛藤、青臭さは共通している。10年前に「桐島、部活やめるってよ」を読んだときは、心を見透かされ核心を突かれたような思いだった。10代特有のかっこつけの正体をありありと描き暴き出した。恥ずかしさや後悔のような感情を抱かせられた。そして、今作を読んでその時の気持ちを思い出させられた気がする。「青臭い」とは、広辞苑(岩波書店)によると「未熟である。」であるの意味であり褒めるときに使う言葉ではない。しかし「青臭い」ことがマイナスの意味ではない、恥ずかしいことではないような気に本書にさせられた。10代特有のかっこつけた冷静さではなく、諦めた冷静さでもなく、情熱を帯びた冷静さに辿り着きひたむきさを恥じらわない様に成長した姿を見せられた思いだった。前二作と違って読後に虚無感に包まれるのではなく、確かな熱量を感じ活力が湧く読後であった。
余計なことであるが、「正欲」よりも本作の方が「多様性」の本質に迫った作品だと感じた。
現代社会にはびこるある世界では存在している多数のスターという曖昧さや虚像については共感するところであり、本物とは何かという問いは声に出さずとも常に持っていたい。
次はアラサー編を期待したい。
<参考文献>
スター 朝井リョウ 朝日新聞出版 2020