森見登美彦著「熱帯」の読書感想




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レビュー:★★☆☆☆

線香花火のような読書だった。
何度も本書への興味が消えそうになりながら、結末への好奇心と期待の灯が心の本当に奥底に僅かにつき続け何とか最後まで見届けることができた。
華やかさを楽しさを求めるのではなく、なるべく長く灯を消さないことだけが目的のようだった。
ゴールが見えず果てしなく続いていく読書は、まるで「熱帯」にいるようで不安や苛立ちが募った。無風帯を抜ければ、きっと爽快感が待っているはずだという期待は残念ながら砂漠の中疲労困憊で期待するオアシスのような幻想であった。
結局、一つの世界軸に収束することはなく物語は無数に存在し、ある一つの(佐山尚一の)熱帯という物語は結末を迎えたといった後味が良いとは思えない狐に化かされたまま終わったような感じた。
言ってしまえば、不可視の群島の世界があまり魅力的な話ではなかったというのが感想である。
原始的な冒険にワクワクするような純粋な心をどうやら私は持っていなかったらしい。
詭弁論部のようなやりとりをどこか期待していたのかもしれない。
正直、本書が今までの森見登美彦氏の作風とあまりの違いに驚いた。
ユーモア溢れて、疾走感がある軽妙な文章とは随分とかけ離れた作品であった。
本書は、純文学のような作品で、こんな生真面目で文学的な文章も書けるのかという新鮮さはあった。しかしながら、如何せん長すぎた。ユーモアのない牛歩戦術を受けているような感覚だった。古から続く壮大なミステリーとしたいようだが、あまり壮大な感じはしなかった。同じところを行ったり来たりの堂々巡りで、たどり着く舞台はやはりお得意の京都であったという印象だ。壮大な世界の話かという期待が萎み、何かしらの伏線の回収があるのかという期待も萎み、パラレルワールドのSF作品という釈然としない帰結だった。
前半と後半の繋がりが、パラレルワールドだけであり個人的には禁じ手のように感じられた。
結局、「熱帯」は何の意味があったのだろうか。ミステリーを感じたのは確かであった。
なーる、白石さんの「熱帯」を読んでみたいと思ったのは私だけではなないだろう。

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