トネ・コーケン著ラノベ「スーパーカブ」の読書感想
レビュー:★★★★☆
(ただし、2巻以降は★★☆☆☆)
1.はじめに
ラノベ「スーパーカブ」を読んでの感想を書いたものである。
ラノベを読むのは久しぶりである。
「ザ・スニーカーLEGEND」の紹介記事を読んで気になっていたので、
購入して読んでみた。
以下は、ネタバレが若干含まれている点をご了承の上、ご覧いただきたい。
2.感想等々
ラノベではあるが、至って現実世界の話である。
むしろ、よりリアルでシビアな世界が描かれている。
主人公は、「小熊」という女子高生だ。
父親は小さい頃に事故で亡くなり、
母親は小熊が高校に進学した直後に失踪してしまう。
小熊は奨学金の給付を受けて、アパートに1人暮らしをして高校に通っている。
天涯孤独の一人ぼっちの高校二年生、それが小熊である。
冒頭から、この設定が明らかにされる。
この時点で前のめりになってしまう。
これから、小熊はどうなっていくのか?と気になってしまう。
出版は角川スニーカー文庫からであり、ラノベのコーナーにある。
ただし、冒頭で述べたように
「宇宙人、未来人、異世界人や超能力者」は出てこない。
至って現実的で地に足が付いた誰でも起こりうるような高校生活が淡々と描かれている。
普通の高校生活を物語として成立させ、最後まで熱が冷めずに読み切らせることができるのは
凄い能力である。
物語の舞台は、山梨県北杜市である。
調べて見ると、実在する市である。
南アルプスの麓に位置する高校に通っている。
高校に行くまでには、勾配のある坂を上っていかないといけない。
この本を読むとこの辺りの地理について理解が深まる。
どういうところで、周辺に何があるのかや道路がどうなっているのかなど
情景が浮かんでくる。
小熊は特殊な生活環境である。
そのためか、
「友達がいない」
「部活に入っていない」
「趣味がない」
ないない尽くしの高校生活を送っていた。
ある日、高校の駐輪所でバイクを見る。
小熊の通う学校では、バイク通学が許可されていた。
南アルプスの麓にある高校で、バスがなく通学が困難な生徒いたり、
道のりが険しいことが理由だろう。
小熊は坂道を上って自転車通学をしていた。
駐輪所に止めてあるバイクを見て、ふと思った。
「あの原付という物があれば何かが変わるのかな?」
そして、バイク屋に見に行った。
原付バイクは金額的に手が届かなかった。
そして、そこでスーパーカブと出会う。
いわくつきの激安スーパーカブ、
何と1万円。
しかも、まだ500㎞しか走っていない。
覚悟を決めて、即決した。
ここから、物語は始まっていく。
ちなみに、スーパーカブとは、
郵便局の配達や新聞配達などに使われている
2輪の乗り物である。
カブに乗ることで、行動範囲が広がる。
新しい世界へ踏み出していくことができる
小熊の喜びがひしひしと伝わってくる。
「Hello,World!」
まさにこんな感じである。
今まで行けなかった場所に、
自分で好きなように行くことができる。
そんな解放された喜び、
新しい世界へ踏み出して変わっていく
小熊がこの話のメインどころだ。
カブを中心にそのいくつもの変わっていく段階を
書かれていて新鮮で面白い。
1巻では飽きが来ない。
このラノベを紹介する上で欠かすことができない
人物がいる。
それが礼子という、小熊の同級生である。
同じくカブ乗りということで、
行動を共にするようになる。
カブが結んだ縁である。
随分と中身の紹介をしてしまっているので、
礼子の人物像は省略する。
小熊はスーパーカブを手に入れたことによって、
何もなかった生活が変わっていく。
何か一歩を踏み出す、行動に移すことで
大きく歯車が動き出すことがある。
小熊は高校生ながら両親がいなく、
奨学金で一人暮らしをしている。
そのような苦境とも言える状況で、
何か変わるかもしれないという直感に従い
行動に移した。
その結果、高校生活が好転した。
変わったのは周りではなく、小熊自身である。
勇気をくれる話でもある。
私は、原付バイクにもスーパーカブにも乗ったことがない。
それでも、カブの細かい話は面白かったし、
カブという乗り物が非常に魅力的なものだと思った。
例えば、スマホを手にして生活が変わったとか、
各成長段階で出会うキーアイテムがある。
私は、原付バイクが必要ない環境であった。
だからか、一層南アルプスや富士山の周辺の高校に
カブで通う高校生の話が新鮮で惹かれたのかもしれない。
逆に、この話には電車(通学)が出てこない。
同じ日本でも、生活環境(暮らし)は違っている。
そういった違った暮らしを想像できるのは楽しいことだ。
本を読む醍醐味でもある未見の世界を知ることができた。
私も、バイクで海沿いを走ってみたくなった。
バイク好きの気持ちが少し分かる気になった。
高校生という若さやカブという乗り物がもたらす爽快感のある
スッキリした作品であった。
最初にネガティブな設定から始まるが、
どんどん開けていく明るいポジティブな作品だ。
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3.おわりに
ラノベを読むのは久しぶりであった。
角川スニーカー文庫の背面は、すっかり変わっていた。
かつては、赤であった背面も白となっていて、探すのに
手間取ってしまった。
現在、スーパーカブの2巻を読んでいる。
1巻目の完成度が高かったので、期待半分不安半分である。
小熊がこの先、どう成長していくのか、
変わっていくのか楽しみだ。
1巻でも、既に別人のようになっている。
陰キャがスーパーカブと出会って、陽キャの充実したキラキラ高校生活を
送るようになる。
今風に言うとこんな感じだろうか。