凪良ゆう著「汝、星のごとく」の読書感想

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1.はじめに

レビュー:★★★★☆
続編の「星を編む」を読む前に書いたものである。
以下の感想に、ネタバレ(具体的な内容)を含まれていることを事前にご了承いただきたい。

2.読書感想

読み応えはあった。
先に星5ではない理由を書くと、2022年当時にしても内容的にありふれたもの(浮気、親のネグレクト、村社会)や流行もの(ヤングケアラー)に恋愛を結び付けたもので斬新さがなかったこと。結末は容易に想像できたし、例えば尚人についても結末を読む前に察しがついた。
それと会話のキャッチボールの間の内面や心情が詳細に書いてあり、人物像や物語が分かり易くて読みやすいのだがテンポが悪いというか会話の間にこんなに考える時間はないだろとやや興ざめするところがあった。
また、ところどころに国(政府)への批判をしれっと盛り込んでおり、陰謀論が好きそうな人向けの小説なのかとも思わせられた。

内容に踏み込んだ感想を書くと、青埜櫂が不憫でならなかった。短い生涯であり、沈んだまま巻き返すチャンスをつかめなかったのは不遇のキャラと言える。周りから指摘されている弱さ(人の良さ)を克服できなかった点があるにしても、本人に落ち度がないことで転落していく様は物語とはいえ思うところがあった。運が悪いといえばそれまでだが、元凶とも言える母親がそれを口にしたのはさすがに憤りを感じた。櫂の母親は知能的に問題があると思うが、その子である櫂が大した教育も受けずに言語能力に長けた少年になるのかとやや懐疑的になった。これもスマートフォンやパソコンなどのインターネット環境のおかげだろうか。生存の能力高さが際立った少年時代だったが、若さを失っていくにつれ、また井上暁海を失ったことにより、その生存の能力の高さも失ってしまったようだ。編集者の二人に恵まれたことは心が暖かくなった。逆に言うと島の人間でまともな人間はいたのだろうかと思う。北原先生に関しても、私は懐疑的な印象を拭えない。必要な人だったとは思うが、やはりできることは限定的で他人の人生を変えるのはそう簡単なことではないなと思わせられた。結婚(関係を持つこと)が唯一の解決の方法なのだろか?ところどころでシビアな選択を迫られるところがこの作品の魅力というか、メルヘンチックな安い物語で終わらせない読み応えになっていたと思う。

そして、核となるところだが、青埜櫂と井上暁海は結局出会ったことは良かったのか?
高校時代は必要な関係であったと思うし、お互いに後悔はないだろうと意見は割れないと思う。
一方で結末を知れば、人生のトータルで見たときに青埜櫂には良かったのか?暁海に出会ったことを含めて運がなかったのか。難しいところである。櫂は暁海がいなくても、高校卒業後の進路は変わっていなかったのは間違いない。高校卒業後の櫂と暁海の関係は良好とは言えないし、暁海がいなければ櫂は違った人生になったのではないかと思うがそれを言い出したら切りがない。何が言いたいかというと最後は予定調和で落ち着いたが、めでたしめでたしと素直に思えない自分がいるし、物語全体にある島の不倫などを含めた歪な恋愛観がしっくりとはこなかったのだ。こういうドロドロした不倫や恋愛模様がエンタメ向きで盛り上がるのは承知している。すんなりいったら物語にならないじゃないかという定石を裏切る斬新さや予想を裏切る何かを期待して本を読んでいるので、やはり星5にはできない。
物語のキーになるセリフを瞳子が言うが、あなたが言うのかと毎回ツッコミどころである。ただ、現実の世界でもプライベートがクズみたいな人間でも、仕事ができる人間はたくさんいるので使えるものは使うという選択が賢い。このようなチップス(又は納得できるところ)が物語のところどころに入っているので、読み進める手が止まることはなかった。

それともう一人の主人公である井上暁海については、現実的な選択を繰り返したなと思う。櫂と同じで家庭環境に難がありすぎて、過ごした10代20代を思えば終わり良ければ総て良しとは簡単に言えない。島(閉塞的な社会)で女であるが故の知らず知らずのうちの意思決定問題の提起になっていたと思うが、ここまで壊れた家庭ではないにしろ、悪しき慣習による女性の社会進出や選択肢が制限されている問題は珍しいことではないので、強く生きるしかないんだろうな。櫂に対するほどの熱量がないのは、やはり暁海にはまだこれからがあるからである。

最後に書くが、一番心を動かせられたのは編集者の植木と二階堂絵理の好意である。よく分からないが、この二人の好意には私も救われた気持ちなった。
人間味があり、仕事もできる都会のエリートを出すことで、暗に島の人間の無能さや性格の悪さを際立たせている。
島というのはもちろん特定の島を指すというよりは、どこにでもあるコミュニティと解釈している。どこにでも、人格が破綻している人間はいるし、恐ろしいことにそれを自覚していない人間がいる。自分に非はないにも関わらず不遇の環境に置かれることもある。
最後はありきたりな感想になるが、そういう環境に対する一歩踏み出す勇気を持つ、理不尽に抗する背中を押してもらえる一冊だった。いつでもあちら側にいけるための準備はしていきたい。

3.おわりに

続編の「星を編む」を既に購入した。それがこの本に対するレビューとも言えるかもしれない。
本屋大賞が好きそうな作品であった。

<参考文献>
汝、星のごとく 凪良ゆう 講談社文庫 2025.7

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