高山一実著「トラペジウム」の読書感想




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1.はじめに

この本を購入したきっかけは、著者が「乃木坂46」のメンバーで、
この本が面白いという評判で売れていたからである。
ただし、私は「乃木坂46」のことをあまりよく知らない。
著者についてはなおさら知らない。
私は欅坂46のファンであるが、全くの別グループであり
読書感想を書くにあたって忖度はない。
その上で、著者の新作が出たらまた読んでみたいと思う作品であった。
若干のネタバレを含むので、ご了承の上以下を読んでいただきたい。

2.感想等

会話中心で進んでいくため、テンポよく読み進められた。
結果、読み終えるのにかかった時間は5時間程度であった。

あらすじは、本の帯に書いてある通り、
絶対にアイドルになりたい女子高校生「東ゆう」の話である。

同じく帯に書いてある、「アイドルを目指す女の子の10年間」
という謳い文句はちょっと語弊があると感じた。
実際に10年間は描かれていない。
アイドルになる過程にフォーカスした作品であり、
アイドルの世界を描いた作品ではない。
今やNO.1アイドルグループである「乃木坂46」の1期生である
著者の経験が最も活きるであろうアイドル活動については、
サラッとしか描かれていない。
かと言ってこの本のメッセージとして足りない部分はなく、
見事な完結となっていた。
挫折あり、友情あり、また挫折があり、おぼろげなものから
確たる光を見つけて輝かせた主人公。

原作を映画化した脚本かのごとく展開が速く、
無駄なところや遊びがない。
随所に著者の感性が光る言葉選びがあり、
読み物としての厚みはあった。
特に服装などの外見に関する描写が印象に残った。
谷川流著「涼宮ハルヒの暴走」の短編「エンドレスエイト」のような
永遠に同じ日を繰り返すというのは極端であるが、
主人公たちの感じた「時間」をもっと知りたいと思う自分がいた。
物語の中の過ぎ去る時間にどこか抵抗したい自分がいた。
短い読書時間ではあったが、随分と読み耽っていたのだろう。
足そうと思えばいくらでも足せたところを、
話をブレさせないように話の軸を忠実に書いた作品だと思った。

読んでいて、綿矢りさ著「インストール」や「蹴りたい背中」を思い出した。
女性の感性というか空気感で描かれていて、女子高生の「東ゆう」がどういう風に世界を
見ているのか、どういう人物なのかはありありと伝わってきた。
女子の世界である。
主人公をどこまでも中心に描かれている作品であり、
他の登場人物はキャラクター(特徴)を持っているものの、
実はよく分からない。
他者の視点ではなく、主人公の世界観、夢をひたすら描いた作品である。
主人公は、ぶれず、行動力がある。
そして、計算高い。

主人公の他に、工藤真司という重要な登場人物がいる。
一言で表すと、オタクである。
乃木坂46という名前に釣られてこの本を読んでいる人は、
このオタクに感情移入するかもしれない。
私も工藤という登場人物には好感を持ったし、
もう一人の主人公と言っても過言ではない。
二人の関係は、アイドルとパトロンとも言えるし、
それだけではなくお互いを高めあえる良好な関係である。
目の前にいるのにどこか遠い存在、手の届かない存在、
そう坂道グループのような距離感だ。
世界観はやはり坂道グループのようなアイドルの世界が根底にある。
工藤は真っ直ぐである。
アイドルに夢中になって無駄な時間を過ごしたのではなく、
自分の夢を叶える糧にできた。
このあたりにも著者のメッセージがあるような気がした。

この作品で一番心に残った言葉がある。
そのまま引用させていただきたい。
どこで出てくるかは、ネタバレの度が過ぎるので引かえさせていただく。
ご了承願いたい。

「夢を叶えることの喜びは、叶えた人だけにしかわからない。」

随分と胸に刺さる言葉である。

後半に差し掛かると段々と「乃木坂46」が頭をよぎってきた。
アイドルが話の軸にある以上、著書自身の経験はどうしても切り離せないのだろう。
勝手に主人公と「乃木坂46」の人気メンバーを重ねて、言葉の重みを感じた。

終わりはとてもスッキリしたものであり、伏線の回収の上手さに心躍らされた。
立ち上がって「ブラボー!」と拍手喝采を送りたい。
後味の良い作品であった。
振り返ると「トラペジウム」というネーミングの発想から既に
非凡なセンスを発揮していた。

2018年11月28日に出版され、
2020年4月24日に早くも文庫化される。
文庫化にあたって、著者である高山一実氏が「自分自身の姿を描いた」という書き下ろしエッセイが新たに収録される。

3.おわりに

上記の述べたように、「トラペジウム」は広げようと思えば、
特に後半に関してはもっと広げられる作品である。
その期待を残しての初小説である。
次回作にも期待している、次回作を読みたいというのが率直な感想である。

今作は初版の発行部数を抑えたのか、入手困難であった。
買おうか迷っているうちに書店からあっという間に消えた。
買えたのは、3版となってしまった。
次回作は、予約することを心に決める1冊となった
というのが読書感想である。

マスター:クレア


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