『八月の御所グラウンド』『六月のぶりぶりぎっちょ』の読書感想
この2冊に収録されている物語には共通項があり、一部繋がっているのでまとめて感想を書く。
一部ネタバレ(具体的な物語の内容)を触れた上で感想を書いていることを事前に了承いただきたい。
レビュー
十二月の都大路上下ル ★★★☆☆
八月の御所グラウンド ★★★☆☆
三月の局騒ぎ ★★★★☆
六月のぶりぶりぎっちょう ★☆☆☆☆
読書感想
〇十二月の都大路上下ル
中途半端な作品に感じられた。
女子全国高校駅伝を題材にした作品ではあるが、別に女子全国高校駅伝である必要があったわけではない。すなわち駅伝の魅力を存分に伝えるための物語というわけではなかった。かといって新選組を登場させて何か大きな物語があったというわけではない。
とある女子高生の青春ダイアリーみたいなふわっとした作品だった。
ふわっとした物語で女子高生にそれほど魅力があったかといわれると微妙である。
著者にはスポコンが全く感じられないので、真剣な部活動を書くとこれが限界なのか。
〇八月の御所グラウンド
著者らしい作品だった。お得意の怠惰な男子大学生を書いた物語だ。
草野球というのも著者の物語に丁度いい。
そこに、かの有名な沢村賞の起源である沢村栄治を草野球に降臨させるという荒業だ。
ただ降臨させて無双させるわけではなく、思いの外深い話にもっていき戦争について考えさせられるというユーモアが少ない作品だった。
中国人留学生シャオさんが女で「アイヤー」がなかったら、随分と置きにいった作品だったと思う。
「アイヤー」に著者の魂がかろうじて感じられた。
直木賞の選考委員会に評価されるためには、奇想天外で時に読者を置いてきぼりにするような飛躍のある作品ではいけないのだろう。
正直に感想を書けば、戦争や沢村栄治を題材にした作品としては浅い作品だと思った。
沢村栄治以外の戦死したプロ野球選手でも、この物語が成立したか、同じような読後の思いをはせる気持ちなったかと考えると、やはり沢村栄治の偉大な名前に依存した作品のような印象を否めない。
私個人の意見であるが、司馬遼太郎作品しかり実在した故人を好き勝手に妄想で描くような時代小説はあまり好きではない。
「十二月の都大路上下ル」もそうだが、物語が短い。読みやすいが、何か物足りなさが残った。
〇三月の局騒ぎ
この作品は斬新だった。キヨが物語に溶け込んでいたし、キヨである必要性が感じられた。
清少納言と思しき人物が登場するが、この物語こそ「となりのトトロ」ではないか。
私も超常現象的な運命の出会いをしてみたいものだ。
小説等を読むのは、こういう非日常の何かを求めているからだと改めて思わせられた。
この物語に関して言うと、これ以上長くすると蛇足になると思われるので短い作品だったが、物足りなさは感じなかった。
〇六月のぶりぶりぎっちょう
この物語は、残念ながら悪い意味でめちゃくちゃで、ユーモアもなく、はっきり言ってつまらなかった。
本能寺の変の話をしながら、実のところ本能寺の変の話をしていない。
何か進展があるわけでもなく、意味不明な設定の話を読まされ時間を浪費した。
織田信長の立場になって読んでみれば分からなくはない話である。
好き勝手に時代小説を書く作家やエビデンスのない妄想を抱く歴史学者への批判と読めば攻めた感じはしないでもないが、いかんせん作中の劇が面白くなかった。
どうせなら本当に戦国時代にタイムスリップくらいの壮大な作品を見たかったが、それはそれでありふれた、使いまわされた作品、展開となり、自己矛盾に陥るのか。
本作に登場する織田信長をはじめとした登場人物があまり魅力ではなく、物語が面白くなかったので星1と評価するほかない。「ぶりぶり、ぶりぶり」。
<参考文献>
八月の御所グラウンド 万城目学 文藝春秋 2023.8
六月のぶりぶりぎっちょう 万城目学 文藝春秋 2024.6