本谷有希子著「あなたにオススメの」の読書感想

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レビュー:★★☆☆☆
本書は、「推子のデフォルト」と「マイイベント」の2編になっている。
どちらも結末に物足りなさを感じ残念だった。

【推子のデフォルト】
この話がiPhone3Gがはやりだした2009年頃に書かれたものであれば、斬新さや驚きを感じたかもしれない。本書は2021年に書かれたものであり、現在のテクノロジーに基づき書かれた現実的な話である。世相を風刺した小説、世のIT化に警鐘を鳴らす作品だ。

もし本書のようなIT化への警鐘の鳴らして手が昨今のギガスクール構想などのIT化に対応できない小学校の先生だった場合、受取り手は話半分で冷ややかに受け止めることだろう。私は本書を話半分に読んでいた。

若年層からのIT化により、視力の低下や自分で調べる癖、探究する姿勢が欠落しているとの分析例を見たことがある。デメリットを発見し、改善につなげることは大切である。粗探しをしてデメリットを見つけては鬼の首を取ったようにただ騒ぎ改善しようとしないのは害悪である。Windows95が開発され、コンピューターが大衆化されてから大分経つ。そのときから積極的に教育等に取り入れていれば、日本の社会は今とは変わっていたではないだろうか。パソコンやスマートフォンの機器も中身のOSもソフトも、ほぼ全て外国製であり、IT分野での人材不足や技術の遅れを取っている現状でも理解不足による警鐘を鳴らすのは誰のためなのだろうか。パソコンをタイピング以外で使うのは一部の専門職、特殊技能を持った人という感覚の世代がまだ大分いるのだろう。本書には不満だったのは、技術を開発、運用、保守するのも人間だという視点が欠けていることだ。ゲームもするだけの人もいれば、当然開発する側の人もいるから世にゲームが存在する。社会の発展を阻害するだけの議論は害である。
確かにIT化により失われたものはある。レジのセルフ化により人が要らなくなるなど単純作業が機械に奪われている。また、今やスマートフォンのLINEなどのアプリがあることを前提に生活を設計されているところがある。このことに懐疑的なのは一つ前の世代であり、物心ついたときからあれば疑問を持たないだろう。いつまでも古き良き時代みたいなことを言っていても子どもの機会を奪うだけである。技術は徐々に発展しているのに、完全に隔絶していると本書のこぴくんママのように急激に変化し過激に感じられるかもしれない。
技術による社会の変化、技術に従属的な人間という逆説の問題も重要だが、それを当たり前のように手に入れられることが前提となっていることの方に違和感を抱いた。スマートフォンもタブレットもパソコンも実用性があるスペックの機器自体が高額である。そして、動画編集するソフトやデバイスも高額である。ポンコツのスマートフォンと最新のスマートフォンではできることや処理速度が違うので、よくわからない親はそれだけで子どもの機会や時間を奪っているのである。それがわからないで、私が子どものときは~などと話始まることだけは避けたい。結局はいつの時代もお金を持っている者が最新で快適なサービスを利用できるということに行き着く。私はこちらが本質だと思った。

【マイイベント】
渇幸のキャラクターが本当に憎らしく、途中から川に流されないかなと期待してしまっていた。最後どうなるのかその一点に気持ちが盛り上がり推測しながら読んでいたが、結末にはがっかりした。天誅が下ることを期待していたが、暴力的な破壊で終わったことは残念である。結末に至るまでの全ての過程を台無しにされた気がした。うさぎが暴れて屋上から落っこちるとか、まだそちらの方が腑に落ちた。
P236で一旦バンバ家全員を追い出したのも急展開過ぎた。ところどころ意味が分からない、繋がりが悪いところがあったのも残念だった。登場する人物全員が憎たらしいので、フラストレーションが溜まったまま読み終えてしまった。
どうか結末後、両家に暴力的破壊以外の喧嘩両成敗が下りますように。
夫婦で一方が至って普通で、もう一方だけがヤバめというパターンはやはりないのだろうか。

さて、2編を読み終わってからタイトルの「あなたにオススメの」の意味を考えてみた。どちらの話もバットエンドだ。技術や環境に振り回され流される自分と利己的な自分、どちらも極端である。本書の物語は皮肉であることを考えると、どちらもオススメされても困るし、こうならないようにねというメッセージだと受け取った。

<参考文献>
あなたにオススメの 本谷有希子 講談社 2021

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