「それでも会社は辞めません」の読書感想

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レビュー:★★☆☆☆

※以下の感想には、ネタバレ(本書の内容)が一部含まれていますことを事前にご了承ください。

 正直思っていた内容と違った。購入したきっかけは、書店で見かけてタイトルから目が離せなくなったからだ。タイトルや表紙からブラック企業に勤務し理不尽な職場と戦い、最後に何かしら光を見つけてめでたしめでたしで終わる作品を想像した。
感想は、
・新卒採用に失敗して地雷を引いてしまった会社の話
・人材派遣会社の意義を伝える話
だと思ってしまい、著者の意図とは違った感想を抱いてしまったのではないだろうか。
最後の3ページが著者が一番言いたかったことなのだろうというのは分かるのだが、最後の章で肝心なところは煙に巻かれてハードランディング過ぎた。肝心なところというのは、本書でいう“未来好転率”、会社の利益に貢献しない生産性が低いことが許されるものなのかという大きな問はふんわりとして終わった。SDGsが叫ばれ、利益追求一辺倒ではなく企業が社会的役割を果たすことを求められる時代だというのは分かるが、自社の利益を無視して自己満足を優先させるのはどうなのだろうか。ところどころ「ん?」と思うところがあった。だから、すうっと心が軽くなる作品とか勇気をもらえる作品とまでは言えない。
 
 主人公の福田初芽をどう捉えるかで、この作品の好き嫌いが別れるのではないだろうか。福田は新卒入社たった7カ月で、会社中の使えない社員が集められたという噂のAI推進部へ異動になった。本書を読み終わっても、この異動は妥当ではないかと思った。会社の利益よりも自己の満足基準で動く、他責がちな思考、公私混同、外で会社の話をベラベラ喋る、上司に説教をかますなど新卒で1年も経たないでここまでやるのだから、化け物とさえ思えてしまう。田舎者だからということで中和しようとしているが、田舎者をなめないでいただきたい。内館牧子さん脚本のドラマ「エイジハラスメント」でも似たような主人公がいたような気がするが、田舎者の女性は生娘とか、普段は大人しいが急にスイッチが入って何をしでかすか分からないみたいな設定こそ偏見ではないだろうか。
 他には、窃盗を軽く見過ぎではないだろうか。職場でポーチを盗まれた被害者の気持ちも考えようよ。
 土屋絵里(35)に関しては、セクハラの被害者で不当な配置転換だと思う。ただ、なぜ会社のパソコンで自分の好きなアイドルの動画配信を観るのかがよく分からない。自分のスマートフォンで観れば良いのではないか。
 AI推進部の社員が、ところどころみんなちょっと変なところがあるのは人間らしさを強調させるための設定だろうが、公私混同せずプライベートですれば済む話なのではないかと思わせられる。例えば福田の弁当屋のシャケ弁当の話にしても、他人のお金で自己満足を得ようとせず、自分のお金でシャケ弁当を買って、言われたとおり総務の分は唐揚げ弁当を頼めば良いのではないか。
 妙にリアルな設定があって納得したり、胸に刺さる言葉があったりするのだが、特権階級寺山の出現など物語全体としては締まりが悪く、読後にモヤッとしてしまう。

 本のタイトルが物語を表している。転職先が決まらずに辞めることで待ち構える不利益について書いたものではなく、とにかく自分からは辞めないと主張する物語である。福田なりの信念がそこにはあり、筋が通っている。良い人をやって会社に筋を通すのではなく、自分の筋を通すという強さは学ぶべきところだと思った。AI推進部のメンバーが最後に有給休暇をまとめて取らなかった意味は何なのだろうか。直ぐにでも転職できた山川を見るにAI推進部が居心地が良かったのは少なからずあるだろう。そもそもとして、AI推進部には毎日のように必要な仕事があるのだから、社内の貢献度は高い部だ。AI推進部がなくなったら謝罪やクレーム対応などの汚れ仕事や急遽のスタッフ補充などAIでは対応できない重要性が高い仕事に支障が出て、困るのはパンダスタッフなのにこの辺りもちぐはぐな印象を受けた。それと水野は部長だが、部長待遇なのかどうかはものすごく気になった。AI推進部は私語ありで、窓もあり、監視カメラが付いているわけでもなく、労働基準法等に配慮されていたので読んでいて最初から、あまり過酷な印象は受けなかった。
 やはり、フワッとした物語だったというのが感想だ。本筋ではない大手通販サイトの倉庫作業やアイドル、アクアショップ経営については妙にリアルだったが、特に思い詰めている人向けの本というわけではなく読みやすい本だった。
 
それっぽく感想を書いておく。
主人公の福田初芽は営利企業の営業には向いていなかった。
入社わずか7カ月で会社中の使えない社員が集められたという噂のAI推進部へ異動に。
しかも会社は辞表を自ら出すように仕向けてくる。
新卒の切符は一度きり。辞めるのは簡単。さてどうする?

<参考文献>
それでも会社は辞めません 和田裕美 双葉文庫 2023年10月

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