森見登美彦著「夜行」の読書感想

Pocket

レビュー:★★☆☆☆

先日、「熱帯」を読んだ。
私が以前に読んだ森見作品と作風が大分違っていて驚きがあった。
しばらく読んでいない間に何があったのかという好奇心から、本書を手に取った。
ちなみに以前に読んだというのは、「夜は短し歩けよ乙女」、「恋文の技術」や「新釈走れメロス他四篇」などの10年以上前の作品である。
なーる、どうやら森見氏はパラレルワールドに熱を入れているのかと思った。
出版順から言えば逆だが、熱帯を読んでいたから、本書「夜行」の内容がすんなりと頭に入ってきた。キーアイテムが本と絵画の違いで構成としては、ほとんど同じである。本書の方が遊びが少なく、「なーる」や「私の熱帯だけが本物です」のような記憶に残るフレーズがなかった。達磨も出てこなく、やはり期待していたパンチが効いていない。ちょっと不思議な長い夜を過ごした気分になる。
本書の感想としては、結末へハードランディングでスッキリや腑に落ちたというよりはそういうことにするかと受け入れざるを得なかった感じた。SFやファンタジーがそういうものと言えばそういうものなのかもしれない。通常は、点と点が結びつき一本の線になる伏線の回収を期待して本を読むものだ。本書は、点の個性が強く収束せずに散らばったままで、プロット図のような近似曲線が通過して結末にいったように感じた。だから、モヤモヤは残り、その個性、本書で言うとそれぞれの夜行に描かれた場所の出来事が釈然とせず独立色が強すぎだ。特に武田君のところの解釈は難易度が高い。その辺りの解き明かされないミステリーに魅了されるか否かが面白いと思うか評価が分かれるところなんだと思う。個人的には観る人によって変わるのっぺりとした女といかようにも解釈できるものだけでなく軸のところがもう少ししっかりとしていた方が好みである。一見さんお断りとまではいかないが、森見氏の作品は全く違う作品間で本書のように大なり小なりの繋がりがある。根底にある森見ワールドというべき、ファンタジーなのだろうか。森見氏の作品を全て順を追って読んでいる読者と久しぶりにとびとびに作品を読んでいる私とでは見えている世界が違うのかもしれない。
新釈走れメロス他4篇は、私のおすすめ15選に入るくらい好きな作品である。あの独特の言い回しや軽快で疾走感ある進行は唯一無二であり、あのような作品を期待してしまっている。残念ながら、熱帯に続きこの真面目なパラレルワールドには魅了はされなかった。

<参考文献>
森見登美彦 夜行 小学館 2016

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です