辻村深月著「かがみの孤城」の読書感想
レビュー:★★★★★
文句のつけようがなく、レビューに迷うことはなかった。
最初から最後まで中身がぎっしりと詰まっている滅多に出会えない長編小説だ。
無駄がなさ過ぎて、休む暇がなく速く続きが読みたいと常に興奮冷めやらぬ状態だった。
文字通り没頭していたのだ。
最後の最後まで目が離せないとは、まさにこのような物語を指して言う事だろう。
伏線が途中で分かっても、全く退屈はない。伏線は一つや二つではない。
そもそも伏線という呼び方が正しいのかもわからない。最初から最後まであらゆる出来事が一つに繋がっているのだ。
内容に関しては、小説が本書にも登場するソング「It’s a small world」を表現した世界で、私が何か書くのはその美しさや尊さに水をさすような気がするので極力控えたい。
本書のように苦しんでいる人に希望を与える書こそ、良書というのではないだろうか。
読みながら即座にその情景が浮かんでくる。語弊を恐れずに言うと、絵本や漫画を読んでいるように絵が世界が頭に浮かんできた。そして、絵本や漫画では表現しきれない、内面や出来事等の情報量の充分さである。
ジャンルで言うと、ファンタジーになるだろうか。
背中を押してくれるというよりは、そっと寄り添ってくれる物語だ。
本書は、誰かに相談してみる勇気や、人に寄り添える心を育んでくれる。
老若男女、誰にでもおすすめできる普遍的な魅力ある作品であった。
上記が率直な感想であるが、これだと読んでいなくても書けそうである。
ネタバレを含んだ感想を書くと、こころがお城に行っている間に母親がこころの不在を確認したのにまず驚いた。
これで夢落ちの線がなくなったのだ。
そうなってくると、願い事はやはり出来レースだったのかという疑問が浮かんでくる。
城の結末は最初から決まっていたのか。
それとも、かがみの孤城という存在が実在することから、死者を蘇らせる願いも実現可能だったのだろうか。
これは永久に分からない、夢の国のおとぎ話のようだった。
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