遠野遥著「教育」の読書感想

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レビュー:★★☆☆☆
エログロナンセンス、これが率直な感想だ。
前作で芥川賞受賞作「破局」も読んでいるが、作者の文章は油そばのように味付けに癖はあるが手は止まらない。
本書の内容はエロ漫画や卑猥な成人向けビデオの範疇を出るものではない。
つまりはエロをメインにした快楽に重きをおいた作品ということだ。
タイトルが「教育」となっていて、芥川賞作家の作品だから深読みしたくなるが、ゴールも金回りの話もなく作品そのものがエロ漫画や成人向けビデオを文章で書き下ろしたものと言われても違和感はない。
作者独特の思考や感情を逐一事細かに説明するスタイルの文章なので、内容が頭に入ってきやすい。しかしながら、世界観として閉鎖空間を描きたいがために、季節も天気も、外の様子もわからず、会話や主人公の内面の描写しかない。だからライトノベルと言えばそうだし、この作品が斬新なところは本書が文学・文芸コーナーに置いてあることだろうか。

洗脳とか教育のあり方への問題提起・ディストピアと読むのが文学・文芸コーナーにある理由とも思えるが、そちらよりも性産業の専門学校とハレンチに読んだ方がしっくりとくる。
特進クラスは監督・脚本家、その他はノゾミのような演者やスポーツ・マンなどのスタッフになる養成所と考えれば全体として途中途中で差し込まれる話にも違和感は覚えない。防衛大学のように在校生は給料がもらえる仕組みのようなもので、部屋や施設内に監視カメラが付いていてプライバシーがないどころかプライバシーを提供していることが在校生が支払っているサービス(労務)なのだろうか。現実的な話をすれば、例えば崇高な理念をもって医学部に入っても、途中で疑問を持ったり付いていけなくなったりし退学する人もいるし、医者の免許を持っている人がみな医者として働いているわけではない。どんな学校でも職場であっても疑問を持つ人はいるし、何らかの事情で心身に異常をきたしドロップアウトする人はいる。本書に登場する生徒なのか学生なのかはよくわからないが、なぜこの学校のような場所にいるのかは明らかにされない。自分で入ったのか、ここはどこなのかと言い出したら切りがない。iPhone12 Proが登場するから時代が今なのはわかる。年齢設定や卒業などの概念があれば問題意識を持って読めたかもしれないが、それはそれで本書そのものが問題となるから年齢設定を明らかにできないのだろう。また、卒業の概念がわからず、その一方で歳は取るようだからディストピアというほど浮世離れしたというか空想の世界とも思えなかった。設定が曖昧で攻めきれず、背景はわからず、その一方で中途半端に外の世界との繋がりがある。そして多くの生徒に自主性があり、ただただハレンチばかりが印象に残る作品であった。

あえて真面目に書くとすると、最近特に問題視されているブラック校則と関連付けることができるだろう。先生たちも論理的に説明できない不合理な校則でも伝統・校風や決まりだからと強要され、破ると罰則を受ける。最近は人権意識の高まりや誰でも発信できるし、拡散されやすいSNSの影響でたびたび問題が指摘されるようになってきた。本書は疑問を持つことは、却ってエネルギーがいることだし消耗することを暗に示している。先生(教師)という権力者の言う通りに、伝統という抽象的なものに流された方が楽なのではと、自我の確立、アイデンティティの形成に教育が及ぼす影響を示し、本当の自主性とは何なのかを問いかけている。というよりも学校に生徒の自主性とはあるのだろうか。教育的指導という言葉に良い印象を持たない人は多いはずだ。教育と冠すれば、不合理な事でもまかり通るところがある日本の社会には私も問題意識を持っている。

<参考文献>
教育 遠野遥 2022年1月 河出書房新社

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