凪良ゆう著「星を編む」の読書感想

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1.はじめに

レビュー:★★★★★

「汝、星のごとく」を読んでから、時間を空けずに読んだ感想である。
以下の感想等に、ネタバレ(具体的な内容)が含まれている点をご了承いただきたい。

2.読書感想

物語を完結させるべく、本当に最後まで書いてくれたので満足した。小説でここまで余白なくして終わるの珍しいくらいである。スピンオフとあるが、主人公の青埜櫂がいない意味ではスピンオフなのかもしれないが、他の主要な人物が各篇の主人公であり続編「汝、星のごとく‐2‐」の方がしっくりとくる。
「汝、星のごとく(以下、「前作」とする)」をクロ本、「星を編む」はシロ本というべき程、本書では主要な人物が救われていく(報われていく)。因果応報というべき帳尻合わせをしてくるところに文句がなく、星5とした。前作が微妙だなと思った人こそ、本書を読むべきだと思う。

前作で非常に心に残る立ち振る舞いをした編集者植木渋柿と二階堂絵理の視点で書かれた編が本書のタイトルである「星を編む」である。この時点で星5である。こんな編集者がいるのだろうかと思うぐらい聖人であり、この二人と巡り合ったことが青埜櫂の短い人生の中で数少ない幸運な出来事だったんだろうな確信を持った。植木氏の名前がまさか渋柿と書いて「じゅうし」と読むとはなかなか味わい深い。短編の「星を編む」は万人受けする作品であった。

他の2編「春に翔ぶ」「波を渡る」は北原草介のための物語である(ときどき暁海)。前作で北原先生はどうなんだろうかと人物像がわかりかねていた。単なる女子高生好きの可能性も大いにあった。本書を読んでも女子だからえこひいきしていた部分は否定しかねるところはある。前作で抱いたどこかしらへの嫌悪感の正体に本書を読んで気づいた。自己嫌悪であり、こうはなりたくないという願望であった。つまりは不器用な人間であったのである。
北原先生を救うためには物語を最後まで書き切るしかなかっただろうから、続編である本書は北原先生のための本と言えるだろう。北原草介という人物への作者の思いが強すぎたのか、草介の父親は報われることなく残念な形で絶命させられ良いところのない反面教師となった印象が強い。情けは人のためならず(苦笑)。

それと個人的な見解として、奨学金に関する考え方は作者とは私は異なる。SNSを代弁したような奨学金制度への批判があるが、ミスリードになりかねない。奨学金の使い道に制限はなく、定期的な申告義務がある生活保護とは違う。奨学金は大学等の高等教育機関のレベルや学生の成績、家庭の収入(一部除く)に関わらず広く門戸が開かれている特徴がある。前作から、国(政府)への批判が目につくのでこれだけは書いておきたい。この物語は暁海の父親や瞳子にも因果応報が来たように巡り巡るから、借りたものは返すという基本的な姿勢は書いておいた方が良いだろう。

他には、作者は意図して書いただろうが、鳶が鷹を生むなんてことは滅多になく、良くも悪くも親子(家庭)で連鎖してしまう。結がシングルマザーになって実家に帰ってきたのを読んで、一筋縄ではいかせぬ作者の意図を感じた。みんな飲食店経営や芸術などの自営業系の道に進むのも特徴的である。また、暁海の実質的な母親の役割を瞳子が果たしたのはさすがに歪な形すぎると思った。本当の親が責任を果たさないというのは、明日見家を含めて一貫しているなと思った。その点では、結は特異であると言えるかもしれない。本書を読んで、家族に対する価値観が変わったということは特にない。親になるのに資格は必要ないが故に問題が起きるのはいつの時代も変わらない話だ。片山敦はどうなった?

苦しんだメインどこが救われたので読んで満足した。なお、「満足した」と書くと久住尚人を思い出してしまう。死後に名誉回復したり、晩年に報われたりしてもと思うところがあるが、それは人生の希望として捉えておきたい。

3.おわりに

小さな島から青埜櫂と井上(北原)暁海という著名人を輩出して物語的な結末であった。
「愛」がテーマらしいが、あまり「愛」について書いた作品という印象は受けなかった。
苦しくても希望を捨てずに頑張っていきたいと思う。
そう思わせられる物語だった。

<参考文献>
星を編む 凪良ゆう 講談社 2023.11
汝、星のごとく 凪良ゆう 講談社文庫 2025.7

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